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zoom RSS 広陵散

<<   作成日時 : 2006/01/25 03:06   >>

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繰り返し映画化・ドラマ化されている金庸の武侠小説『笑傲江湖』は幻の名曲「広陵散」にまつわる話である。『世説新語』などによると、琴の演奏家としても知られた魏の哲学者嵆康(ケイコウ)は死刑にされる時、この曲を演奏し、「頼まれても私は惜しんでこの曲を教えなかった。広陵散もこれで絶えるのだ」と言ったという。その後、文学の世界では、「広陵散」といえば失われ、もはや手に入れるすべのない、美しいもののたとえであった。『笑傲江湖』では、嵆康以前の古代の墳墓から楽譜が発掘されたという設定で、琴の名手の美少女がそれをもとに作られた曲を演奏する。

それほどの幻の曲であるはずだが、実は、中国の民族楽器「古琴」のレパートリーには、「広陵散」と称する曲が今も存在する。それどころか、古琴の CD を適当に買うと、かなりの確率でこの曲が入っているというくらいで、ギターで言えば「アルハンブラ宮殿の思い出」のように、楽器を象徴する曲になっていると言っても過言ではない。

「広陵散」が現存する事情については、古琴奏者 John Thompson 氏のサイトに詳しく書かれている。古琴全般の資料を集め、非常に充実したサイトである。

CD などに収録されている現代の「広陵散」は、ほとんどの場合、明代の朱権が編纂した楽譜集「神奇秘譜」にもとづく演奏だが、20分を超える大曲をそのまま演奏することは少なく、大抵13分ぐらいの短縮版で収録されている。この曲は師弟間で伝承されてきたわけではなく、20世紀に入って、「神奇秘譜」の解読・復元という形でレパートリーに復活したらしい。「神奇秘譜」は、左右の手の動きを、装飾音、ハーモニクス、ストロークの方向に至るまで詳細に記したタブラチュア譜だが、個々の音を保持する長さについては記されていないという。そこのところは、伝承されている奏法や、曲の構造などから推定して復元されているらしい。

朱権は「広陵散」を記録するにあたり、二つのバージョンから一つを選んだという。それ以前にも、この曲の演奏や、楽譜についての言及はそれなりにあるようで、起源の古い曲であることは間違いない。この曲が、「嵆康の広陵散」に直接連なるものであることを証明する方法はないように思えるが、そうでないと決める理由も、今のところないようである。

現在伝わっている「広陵散」は、古代の凄絶な仇討ちの物語を表現したものとされる。物語の「詞」は伝わっていないが、実際の演奏を聴くと、浪曲のような「語り物」を強く連想させる部分がある。ただ、私は今のところ全曲版を聴いたことはない。

「広陵散」にかかわるもうひとつの「謎」は、『源氏物語』で源氏が琴を演奏する場面(「明石」)である。「かうれう」という曲を源氏が演奏したとあり、古来、「広陵散」のことであると解されているが、また反論もある。

曲名を「かうれう」とだけ書くのは変なようだが、広陵散の「散」は「**節」とか「**のアリア」などと似た、曲名であることを示す言葉で、曲名そのものではないので省略できるとも考えられる。しかし「広陵」の音の歴史的表記は「くわうりよう」であって「かうれう」ではない。『源氏物語』では、漢字の音の表記について、それほど厳密に考えられていないのかもしれないが、「か」と「くわ」の違いについても無関心なのだろうか。他の漢語の表記についてよく調べていないのでなんとも言えない。

「かうれう」が「広陵散」だったとして、作者は、『笑傲江湖』の場合と同じように、幻の曲を主人公が弾くという効果をねらったのだろうか。それとも、一般に演奏可能な宮廷音楽の中での難曲・大曲として登場させたにすぎないのだろうか。なお疑問は残る。



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