『希臘羅馬神話』
希臘羅馬神話
南洋堂 1922
南洋堂 1922
しつこいようだが、またこの話題。ネットで流布している「へべれけの語源はギリシャ語である」というトンデモ説の、もともとの出典と思われる本が、国立国会図書館近代デジタルライブラリーに最近追加された。確かに
日本語で大(おほい)に醉ふことを「ヘベレケに醉ふ」と言ふが、これは「ヘーベの御酌」を意味する希臘語 Hebe-erryeke (ヘベ エレケ)と思はれる。と書いてあることを確認。(102ページ。カッコ内は原文ルビの一部)
これだけで終わってはつまらないので、ほかの部分もめくってみる。読み物としては、ある種の魅力があり、新字になおして出版したら、いや、やはりそれはやめた方が、などと、考えてしまう本なのである。
・「ミューズ」は「ムスビ(産霊)」であり、「武蔵」は Musaios
・酒呑童子はステントール
・アマゾンは「山城」または「天城」
・「蓬莱」は四季の女神ホーライ
・古代日本の占い「ふとまに」はPytho-mania
なぜか、ゼウスの父クロノスは、終始「クロヌシ」と表記されており、「黒主」と書いてあることもある。ローマの神ヤヌスは「ヤヌシ」であり、屋根とか家主のことだそうだ。屋根と家主では全然違うが、そういうことは問題にしないのが、この著者の特徴であり、軽快なフットワークの秘密である。Janus の「妻」 Cardea (カルデア)は「門(かど)」となっている。
こう書いていると無茶苦茶なようだが、普通にギリシャ神話の物語が書いてある部分も多い。しかし突然、屈原が出てきたりする。
クレタが「暮の地」とか、「ゼウスに愛せられた伊豫姫」(イーオーのこと)とか、語源的に関連があると言っているつもりなのか、単に固有名詞の翻案(「シャーロック・ホームズ→写楽保介」のようなもの)をしているのか、とくに説明もなく次々と出てくる。「千葉の女王ニオベー」などと繰り返されると、だんだん感染して、外国の固有名詞に片っ端から脱力な漢字をあてたくなってくるが、実際やってみると、なかなかこういう味は出ないものだ。やはり、ただならぬ才能というべきだろう。
「アゲマキの神」というのも出てくる。アテーナー女神の別名となっているが、これはいったい何だろう? いろいろ考えて、anchema^chos (接近して戦う、勇敢な)のことかと見当をつけたが、それが女神と結びついている出典というのはよくわからなかった。さらに、あとの方のディオニュソスの項で、ディオニュソスが変身した獅子が Sicelicus で、つまり「助六」であり、「助六と共に在る女性揚巻は天照大御神の別名 Agemachia である」などと書いてある。真剣に調べるだけ無駄なような気もする。
このような不思議な内容は、「古い時代」だからというわけではなく、同時代から見てもヘンなものだったに違いない。ほぼ同世代の学者には、たとえば新村出がいるわけだし、それほどわけのわからない大昔の時代ではない。
各ページに
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何なんでしょう>月氏